ASD(自閉スペクトラム症)に特徴的な「感覚過敏」について

発達障害

はじめに

ASD(自閉スペクトラム症)の方は、非定型的な感覚を特徴として持っていることがあります。感覚過敏はそのうちの一つで、通常なら気にならないような光や音を苦痛に感じてしまう症状です。ASDの感覚特性は近年注目されており、こうした症状からASDではないかと気づくこともあるようです。

今回はそんな感覚過敏について、具体的な症状や問題点、対処法についてご説明していきます。

そもそもASDとは?

ASD(Autism Spectrum Disorder:自閉スペクトラム症)は発達障害の一つです。ASDには基本的な3つの特徴があるとされており、提唱した人物の名前を取ってWingの3つ組と言われています。

Wingの3つ組


 ①社会性の障害
 ②コミュニケーションの障害
 ③想像力の障害とそれに基づく行動の障害(こだわり行動)
 (引用:新版 自閉スペクトラム症の医療・療育・教育)

他人への興味・関心が薄かったり、気持ちを共有することが少ないということが社会性の障害として挙げられます。また、ASDの方は乳児のころ母親と視線が合いにくい、一人でいても泣かず迷子になっても平気といった特徴が見られることが多いです。保育園や幼稚園に入ると、集団行動になじまず、一人遊びが目立つという特徴も見られます。

コミュニケーションの障害の例としては、皮肉や冗談をそのままの意味で受け取ったり、その場の雰囲気や暗黙の了解が理解できないといったことが挙げられます。また、相手の表情や様子から気分や考えを察することが難しいために、いわゆる空気が読めない人だと思われることが多いです。

また、ASDの方は目の前にないもの、実際にないものを想像したり見立てたりすることが苦手な場合が多いです。また、急な変化を嫌う傾向があり、急なスケジュール変更に対応できないということもあるようです。

以上がASDの基本的な特徴になります。ASDの診断は専門の医師のみが行えるものであり、その際に用いる診断基準の代表的なものとして、アメリカ精神医学会が出版しているDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:精神疾患の診断・統計マニュアル) があります。

その最新版であるDSM-5では、今回のテーマである感覚過敏に関する診断項目(感覚領域の問題)が新たに追加されました。 このことからも、感覚過敏はASDを特徴づける要素の一つとして注目されていると言えるのではないでしょうか。

感覚過敏とは?


感覚過敏とは、その名の通り視覚、聴覚、嗅覚、触覚といった刺激を敏感に受け取ってしまうことです。その結果、ASDではない人なら気にならないような特定の刺激に対し苦痛を感じたり、そのような刺激を警戒し避けるといった行動が生じます。

ASDの場合、こうした非定型的な感覚は過敏だけに限るものではありません。感覚過敏以外にも、次のような特徴が見られます。

ASDの感覚の特徴の問題を論じる際に用いられる用語は研究領域などによって異なるが、一般的には感覚過剰反応[感覚過敏(sensory over-responsivity, hyper-sensitivityなど)]、感覚低反応[感覚鈍麻(sensory under-responsibility,hypo-sensitivityなど)]、感覚探求(sensory seeking behaviorなど)に大きく分類されることが多い。
(引用:自閉スペクトラム症の感覚の特徴)

このように感覚過敏の他にも、普通なら気づくような刺激に対して反応が薄い、あるいは見られないといった症状 (感覚鈍麻) や、特定の刺激を強く求めるという症状 (感覚探求) が存在します。感覚鈍麻・感覚探求のどちらの場合でも、知らぬ間に傷を負っていたり、子どもであれば食べ物でないものを繰り返し口に入れるといった問題が考えられます。

しかしながら、やはり感覚過敏が生じることが多いようです。そこで、感覚過敏の具体的症状についてご紹介します。

感覚過敏の具体的症状

  • 蛍光灯の光や日差しを苦痛に感じる(視覚過敏)
  • 掃除機や洗濯機といった周囲の雑音が気になり集中できない。また、会話をして居る際、周囲の音のために相手の話が聞き取れない(聴覚過敏)
  • 香水の匂いや他人の体臭、口臭に敏感である(臭覚過敏)
  • シャツのタグやパンツのゴムなどが不快であったり、特定の繊維を使用した衣服しか着用することができない(触覚過敏)

視覚・聴覚・臭覚・触覚それぞれの代表的な症状の例を挙げました。しかし、上記はあくまで主な例です。感覚過敏は個別性が高く、人によってどの感覚で過敏が生じているかやどの程度の過敏であるのかも違います

以上の例は、言わば感覚過敏の直接的な症状と言えるものですが、それらが原因となって仕事や学校での勉強に集中できなくなることによる間接的な悪影響も問題になってくると考えられます。

感覚過敏の原因

今のところ、ASDの感覚過敏についての明確な原因は明らかになっていません。しかし、その背景として脳の神経回路の多様性が関係しているのではないかという指摘もあります(引用:発達障害の方の「生きにくさ」の背景にある脳内メカニズムの解明に向けて)。

また、感覚過敏に対する治療として、薬物療法の報告は少なく、感覚統合療法というリハビリテーションの一つもありますが、これについても効果検証した研究は少ないようです。

とはいえ、感覚過敏に対して何の対処もできないというわけでもありません。感覚過敏の問題点を踏まえたうえで、しっかりとした対策を講じることも可能です。次の章では、感覚過敏の対処法として、本人自身ができることや周囲の人ができる配慮についてご説明します。

感覚過敏の問題点と対処法

本人ですら気づかない?感覚過敏の問題点

感覚過敏は周囲の人はもちろんのこと、本人ですら気づきにくい問題であると考えられます。というのも、自分の感覚と他人の感覚を比べることはできないからです。本人が苦痛を感じていたとしても、他の人も同じように感じ我慢しているのだと考え、感覚過敏だと気付かないままということもあるでしょう。

さらに、日常生活において不快な感覚刺激を回避するコーピング・スタイルが定着してしまうと、行動面だけから評価することが難しく、自己評価や他者観察による評価だけでは見落とされる可能性(引用:自閉スペクトラム症の感覚の特徴)が指摘されています。
これはつまり、不快な刺激を前もって避ける行動が定着することで、感覚過敏反応が生じる場面に遭遇することが減るため、本人や周りの人が気づく機会が少なくなるということです。

また、もしも感覚過敏ではないかと本人が感じ、そのことを口に出しても、周囲の人が本人のわがままや気にしすぎであると捉えてしまうこともあると予想されます。

以上のように、感覚過敏は表面に出てきにくい問題であるということが考えられます。

感覚過敏の対処法

感覚過敏の治療法はいまだ確立はされていませんが、本人や周囲の人の努力によって感覚過敏が原因で生じる苦痛を軽減することは可能であると考えられます。具体的には、次のような支援の例が挙げられます。

  1. 感覚の特徴を周囲の人に正しく理解してもらう
  2. 普段から情動の安定化を図る
  3. 不快感や不適応行動を誘発する感覚刺激を低減するよう環境調整を行う
  4. 不快感や不適応行動を誘発する感覚刺激を低減するツールを用いる
  5. 本人の対処行動のバリエーションを増やし、適切な代替行動の獲得を支援する

 (引用:自閉スペクトラム症の感覚の特徴

第一に、周囲の人に理解してもらうことは感覚過敏への対処を行う上で最も基本となることです。周囲の人の理解なしでは感覚過敏に対して出来る対処をしようにもできないという状況になることが考えられます。

また、感覚過敏がみられるASD者の中には、不安が強くなると感覚過敏がさらにひどくなることが多いため、普段から不安を軽減し、安定的な状態を保つことが重要です。

感覚過敏に対する直接的な対処法としては、本人が自分自身でできることと周囲の人に協力してもらってできることがあります。個人でできることとしては、視覚過敏の場合にはサングラスをかける、聴覚過敏の場合には耳栓をするといったことがあります。また、周囲の方ができる配慮としては、職場や学校などでは照明や騒音の出る場所から離れた場所で作業してもらうといったことが考えられます。しかしながら、サングラスをかけたり、耳栓をするといった個人でできる対処も職場や学校で行うときには、やはり周囲の理解が必要となることが考えられます。

また、他の刺激に集中している場合、不快な感覚刺激への反応が軽減されることがあるため、不快な感覚刺激から注意を逸らす方法を導入することが有効な場合もあるようです。

このような対処を行うことによって、感覚過敏そのものの治療はできなくても、それによって生じる苦痛やストレスを軽減して生活を送ることができるようになるでしょう。

まとめ

いかがだったでしょうか。今回はASDと感覚過敏について、症状や問題点、対処法について説明してきました。光や音といった刺激に対して苦痛を感じる感覚過敏はASDの一般的な症状の一つです。

感覚過敏は本人や身近な周囲の人でさえ気づきにくいという問題があり、また感覚過敏への対処には周囲の理解が必要不可欠です。周囲が本人の症状について理解することは、ASDだけでなく発達障害一般にも言える基本的なことであると思います。

もしも、家族や周囲にASD者がいらっしゃる方の場合には、感覚過敏という症状もあるのだということやそれが本人にとって非常につらいことであると知っておくことは大切なことです。

また、自分にも感覚過敏のような症状があって悩んでいるといった方もいらっしゃるかもしれません。そのような場合、もしかしたらASDの傾向がある可能性もあると考えられますが、明確な診断を行うには専門医を訪れる必要があります。こうした問題は一人では解決できないことも多いので、早めに誰かに相談することが悩みを解決する近道になるかもしれません。

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この記事を書いた人

匿名希望

地方在住。大学では、心理学・教育学、特に発達障害について学ぶ。生きづらさや悩みを解消するために少しでも役に立てれば幸いです。

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