自分のことを好きすぎる「自己愛性パーソナリティ障害」とは

メンタルヘルス

自分のことを好きすぎる「自己愛性パーソナリティ障害」

あなたは自分のことが好きですか?人にあまり言えないけれど、実は自分が「好き」という人がいるかもしれません。学校、職場などで「自分に自信を持ってやりなさい」とよく自信の大切さについて言われることがありますね。

自己肯定感、自尊心を上げることが大事だと言われる世の中ですから、これから先を生きていくうえで自分に自信を持つことは重要です。多くの人が自分に対する自己肯定感や自尊心を上げるためにどうすればよいかを悩んでいます。

しかし、中には度を越えた「自尊心」を持つ人もいます。いわゆる、「ナルシスト」と言われるような人たちです。「ナルシストな方が常に自分に自信を持ってていいのでは?」と思う人もいるかもしれません。いえいえ、ナルシストな人にもそれなりの「苦労」があるのです。一体どういうことなのか、「自己愛性パーソナリティ障害」について学べば、その苦労がわかるかもしれません。

自己愛性パーソナリティ障害って何?


それでは、自己愛性パーソナリティ障害について説明します。「ただのナルシストな人じゃないの?」と思う人がいるかもしれませんが、「ナルシスト」ってどういう特徴のことを指すと思いますか?

・トイレの鏡の前でずっと自分の顔と髪型をチェックしている人?
・自分のことしか気にしない人?
・人をよく見下す人?

ナルシストといっても様々なイメージがありますよね。自己愛性パーソナリティ障害の医学的診断基準は以下になります。

自己愛性パーソナリティ障害 (DSM - 5)

誇大性(空想、または行動における)、賞賛されたいという欲求、共感の欠如の広範な様式で、成人期早期に始まり、種々の状況で明らかになります。

次のうち5つ(またはそれ以上)によって示されます。

  1. 自己の重要性に関する誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待します)。
  2. 限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれています。
  3. 自分が特別であり、独特であり、ほかの特別なまたは地位の高い人達に(または施設で)しか理解されない、または関係があるべきだ、と信じています。
  4. 過剰な賞賛を求めます。
  5. 特権意識、つまり特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待します。
  6. 対人関係で相手を不当に利用します。つまり自分自身の目的を達成するために他人を利用します。
  7. 共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしないです。
  8. しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込みます。
  9. 尊大で倣慢な行動または態度。

パーソナリティ障害(境界性/自己愛性)について(その2)

診断基準に書いてあることは、難しい言葉で書かれているので具体的にイメージしづらいかもしれません。

全体を読むに、「自分は特別な人間だと思っていて、人から過剰な賛美を求める」ような特徴だと言えます。そして、時に自分のために他人を不当に利用しようとしたり、他人の気持ちを考えられていないこともあります。

まさに、「自分ファースト」な特徴を持つのが、自己愛性パーソナリティ障害というわけです。このように、自分ファーストな自己愛性パーソナリティの人は、どのような苦労があるのでしょうか?

実はこういう人々は、ストレスに弱いです。「自己愛性パーソナリティ障害に関係なく、ストレスに強い人なんかごく一部でしょ!」という声も聞こえてきそうですが、次に彼らがストレスに弱い理由を解説します。

ストレス過多に耐えられない自己愛性パーソナリティ障害

自己愛性パーソナリティ障害がストレスに弱いということは、昔から臨床現場で指摘されていました。自己愛性パーソナリティ障害の人々が精神科・心療内科を受診する理由としては、「抑うつ」を訴えるものが多いと言われています。(参考 : 強迫症状と自己愛傾向人格構造

抑うつとは、「気分が落ち込んでしまって何もする気になれない」ような状態のことです。(参考 : 健康長寿ネット)「自己愛」そのものは、誰しもが持っているものであり、生きていくために必要なものです。

しかし、それが強すぎる自己愛性パーソナリティ障害の人々は、「自己像が不安定」な状態にあり、結果としてストレスに弱いことが知られています。自己像が不安定ゆえに、他人からプライドを傷つけられるような状況に敏感になりすぎてしまうのです。「自分とはこういう人間だ」という部分が不安定だから、ストレスが引き起こされると影響されやすいのです。(参考 : 自己愛傾向が自己像の不安定性, 自尊感情のレベルおよび変動性に及ぼす影響

それでは、自己愛性パーソナリティ障害の人が強いストレスを受けた場合、どのような状態になってしまうのでしょうか?

これは、性別によって差が見られます。男性の自己愛性パーソナリティ障害の人では、抑うつ反応が見られることと、自律神経系の活動が亢進しやすくなります。女性では、身体的な疲労感を感じることが増えます。(参考 : 自己愛人格傾向についての素因–ストレスモデルによる検討

すべて、ストレスを感じた時に誰にでも見られるものです。しかし、自己愛性パーソナリティ障害の人は、強いストレスが存在する状況の時に通常の人よりこのような症状が出やすいのです。

では、なぜ自己愛性パーソナリティ障害になってしまうのでしょうか?この原因を「母親との関わり」の面から指摘した仮説があります。

自己愛性パーソナリティ障害の「自分を認めてほしい」という心の叫び


少し前に「嫌われる勇気」という本が話題になりました。これは心理学者のアドラーの理論に基づき、「個人心理学」についてわかりやすく書かれています。他人に合わせる必要はないこと、自分の道を進むという「唯我独尊」的な自己受容をアドラーが説いている一方で、「他人ありき」で成立する自己愛を説いた人がいました。それがコフートというオーストラリア出身の精神科医です。

コフートは数多くの臨床経験から自己愛性パーソナリティ障害がどのように形成されていくかの仮説を立てています。コフート曰く、自己愛性パーソナリティ障害の人々の母親が「非共感的」である場合にそれが形成されうると指摘しています。

なぜ母親が「非共感的」である場合に自己愛性パーソナリティ障害になってしまうのでしょうか?子どもの時は、誰しもが「母親に認めてもらいたい」という欲求を持っています。しかし、母親が子どもを過度に無視したり叱ったりすることによって、子どもの持つ母親への承認欲求が十分に満たされない状態が続いていくのです。

子どもが母親から褒めてもらいたくてしたことに対して、母親から「すごいね、よくできたね」と暖かく認められないと、子どもはさらに認めてもらうための行動を起こします。

そのような行動の繰り返しの結果、人から認めてもらうための自己顕示欲だけが大きくなってしまいます。「自分を認めて!」という気持ちが大きくなりすぎてしまって、現実が見えていなかったり、他人からの評価に過敏になるのでやたらと自己防衛的だったりするのです。

自信があるように見えて、実は自信がない。自己愛性パーソナリティ障害の人の行動や考えの根本にあるのは、「自分を認めてほしい」という苦しみです。

参考 :  Ⅱ)コフート 健全な自己愛と自己心理学(Ⅴ)自己愛の回復

自己が「傷ついている」だけで「欠陥がある」わけではない

コフートは自己愛性パーソナリティ障害の人たちについて、このように述べています。

自己愛性パーソナリティ障害などの障害を抱えた人たちでも自己は傷ついている。しかし、何か「欠損」を持っているわけではない。自己のどこかが「欠損」しているわけでもない。

Ⅱ)コフート 健全な自己愛と自己心理学(Ⅴ)自己愛の回復

自己愛性パーソナリティ障害の人々は、何か人として重要な部分が欠けているわけではないのです。ただ、「自分自身という存在が傷ついている」状態なのです。彼らは彼らなりの「自分のかわいがり方」をしているだけなのです。それが例え人からは理解しがたいようなものであっても、そのような方法でしか自分をかわいがることができないのです。

では、自己愛性パーソナリティ障害の人が抱える傷を、どのように癒し、健全な自己愛を手に入れさせるのでしょうか?

これは、周囲の人からの影響も大きいと言われています。自己愛性パーソナリティ障害の人が周囲にいた場合、一度冷静になって関わりを考えてみましょう。彼らの「自分を認めてほしい」という心の叫びが感じられるはずです。そして、彼らの持つ「傷」を受けとめたうえで、より良い「自分のかわいがり方」を示してあげること、それが自己愛性パーソナリティ障害の人の健全な「自己愛」に繋がるでしょう。

また、コフートは自己愛性パーソナリティの人々について次のように言っています。

彼らの自己が成長して行くのに「もう既に遅すぎる」ということはない。レッテルを貼るべきではない

Ⅱ)コフート 健全な自己愛と自己心理学(Ⅴ)自己愛の回復

世の中を見ていると、「自分はもうこれから成長をするような歳でもない」と半ばあきらめのような言葉を言っている人を見かけます。それは、自分に対する「レッテル貼り」なのかもしれません。

「自分はこういう人間だから、あの人はああいう人間だから」とレッテル貼りをせず、「自己」を成長させる必要があるのは、何も自己愛性パーソナリティ障害の人だけに当てはまることではないのかもしれません。

この記事を書いた人

匿名希望

東京にある某大学の法学部を卒業後、大手保険会社に数年勤務。
仕事をする傍らでメンタルヘルスについて興味を抱いたことがきっかけで、一念発起して心理系の大学院に入学。
1人でも多くの人に心理学やメンタルヘルスの知識を広めるため、ライターとしても活動している。

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