「自傷行為」とはなにか

メンタルヘルス

自傷行為とは

最近は自傷行為と聞いて知らない人はいないのではないでしょうか?ここ数十年の間にリストカットを取り扱った漫画「ライフ」が女子中高生の間で流行したり、歌手ではCoccoがリストカットを主題にした曲を発表したりと、自傷行為、特に「リストカット」という言葉が注目を集めたように思います。

少し前リストカットは、“人の気を引くため”、そんな風に捉えられていた時期がありました。もしかしたら、今も“リストカットは人の気を引くため”と思っている人が多くいるかもしれませんね。人の気を引くためだから、間に受け止めず反応しないといった対応をしてきた人もいるでしょう。

しかしながら、現在、自傷行為は特徴が少し変化しています。 今回は、自傷行為について改めて知っていただく機会になれば幸いです。

自傷行為の定義、特徴

自傷行為とは、自分で体を傷つける行為であることを理解されている方が多いと思いますが、自傷行為の専門家たちは自傷行為をどのように定義しているのでしょうか。

日本で自傷行為の研究者として名高い国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所松本俊彦氏は、自傷行為を

自傷とは、自殺の意図なしに、非致死性の予測をもって、故意に自らの身体に対して直接的な損傷を加える行為であり、しばしば習慣的に繰り返される
(引用:児童・青年期の非自殺性自傷

と定義しています。

自傷とは、“非致死性”であることから、自殺を意図して行うものではありません。ただし、自傷行為は繰り返すうちに死にたい気持ちが大きくなるという危険因子となり得るため、一概に自殺を意図しないとは言い切れず注意が必要です。

また、松本俊彦氏は “直接的な” という部分が重要であり、

自傷行為は過量服薬や、アルコール飲酒による肝障害やヘビースモーキングによる呼吸器障害といった間接的な身体損傷は含まれない
(引用:児童・青年期の非自殺性自傷

と指摘しています。

最後に“習慣的に繰り返される”とありますが、自傷行為は 【嗜癖】 としての特徴があります。

自傷を行う人は、イライラや著しく高まった不安を一時的に解消することを目的として自傷を行います。 しかし、イライラや不安の解消は一過性のため、再度不安が高まった時には自傷を繰り返してしまいます。

自傷は繰り返されることでどんどん習慣化してしまうのです。

境界性パーソナリティ障害から独立

さらに最近の自傷行為の特徴として、境界性パーソナリティ障害から独立したことがあげられます。

精神障害はDSMという、アメリカ精神医学会で作られた診断基準をもとに、ここ日本でも診断されています。DSMは何度か改訂を繰り返され、直近の2013年にDSM-5が出版されています。DSM-5における自傷行為の取り扱いに変化がみられているのです。

DSM-4:境界性パーソナリティ障害の症状のひとつ
DSM-5:非自殺性自傷と呼ばれ、自傷自体を治療の対象とするよう独立

これまでは境界性パーソナリティ障害という疾患を診断するための症状のうちの一つとして取り扱われていましたが、境界性パーソナリティ障害とは分離され、自傷それ自体を治療の対象としたのです。

境界性パーソナリティ障害においての「自傷行為」とは、人からもっと愛されたい、もっと自分をみてほしいといった、「周囲につらさを分かってもらうために」行われることが多いとされていました。

今までのように「周囲につらさを分かってもらうために」行われる一面も人によってはもちろんありますが、現在はそれ以上に、高まったイライラや不安の解消を目的とした自傷というのが一般的になっているのです。

自傷行為の原因

なぜ自傷行為は発生するのか

自傷行為を行う理由を聞いた調査(Matsumoto et al,Psychiatry and Clinical Neurosiences,2004)があります。

その調査は少年鑑別所へ入所中の十代の女性に行ったものですが、自傷行為を行う理由として最も多かったのが

●イライラを抑えるために (48.5%)
●辛い気分をすっきりさせたくて (9.1%)

-(参考:松本俊彦(2009) 自傷行為の理解と援助)

といった、イライラや辛い気分などの嫌な感情を解消することを目的としたものでした。

理由の中には、これまでも注目されてきた「自分のつらさを分かってほしくて」(18.2%)もありますが、それ以上に自傷行為にはイライラや不安といった不快な感情を低下させる効果があるのです。

そしてこの研究で見逃せないのが、「死にたくて」という自殺を目的に自傷を行うとした回答が18.2%あったことです。

確かに自傷行為は自殺を意図としない行為をいいますが、中には本当に「死にたくて」という気持ちをもって自傷を行う若者も存在します。自傷の程度を確認したり、本人から話を聞くことで、自殺の意図の有無、今後の自殺への影響をアセスメントします。

自殺企図と自傷行為が連続した行為であることは間違いなく、はっきりと区別できるものではありません。自傷行為は長期的にみれば自殺の危険因子となり得ますので、自殺の可能性も考慮し、「死にたい」とか「消えたい」といった気持ちを丁寧に聞いていくことが重要です。

自傷傾向者と性格との関連

自傷行為を行いやすい性格を調べた研究があります。

自傷行為尺度作成の試みとその検討

こちらは自傷行為尺度と性格尺度を用いて、相関を調べた研究です。

研究の結果によると、対人交流場面における性格は 「従順であり、依存心が強く、他者に気配りをせず、気分が不安的で、悩みやすく、自己評価は低い」 という特徴が明らかとなったそうです。

従順で依存心が強いという性格からは、他者に合わせて生活していることが予想されます。しかし、他者にあわせて生活することで、本当に自分がしたいこと、言いたいこととはズレが生じ、自分の中で不満を膨らませてしまうのではないでしょうか。

不満を膨らませ、自分の中の気持ちがいっぱいいっぱいになってしまうことで、他者へ配慮する余裕がなくなってしまうという一面が浮かんできます。

自傷行為の対策

自傷の報告を受けたら

友達や、家族から自傷していることを告げられたらわたしたちはどのような対応をとることが望ましいのでしょうか?「自傷行為の理解と援助」からいくつか、私自身特に重要と感じた対応を何点かご紹介します。

★頭ごなしに「自傷をやめなさい」と言わない

自傷行為を行っている人は、何か悩みがあってその悩みからくる高い不安を解消するために自傷行為を行っています。

いわば自傷行為は本人にとって悩みの対処法であるのです。あるいは、もしかしたら本人も「やめたくて仕方ない」のに「切ってしまう」といった、自傷行為の嗜癖性に悩んでいるかもしれません。

頭ごなしに「自傷をやめなさい」と言われたら、どうでしょう?

何か話す気になれるでしょうか。

はじめから自分を否定されたようで、話そうとする気持ちが失せてしまいます。

★援助希求行動を評価

自傷する人たちはそもそも他の人へ助けを求められない、相談できないことから、問題への対処として自分の体を自傷していることが多いです。そのため、他の人へ相談できたことは評価できる行動に値します。

松本俊彦医師は 患者は「よく来たね」という言葉をかけてほしいと述べています。「よく来たね」「よく言ってくれたね」と、相談できたことに対して支持する言葉をかけてあげることが大切です。

★自傷行為を無視せず、何があったのかを傾聴すること

最も重要なのは、自傷行為を無視せず、何があったのかを聴くことです。最近自傷行為へのあやまった対応として、「反応しない」という対応をとる人がいます。

自傷行為を「人の気をひきたくて」と解釈した結果、そのような対応になってしまっていると思われますが、自傷行為は誰かの気を引きたくて行っているのではありません。

生活の中で誰にも言えないこころの悩み、傷があって、誰かに相談するといった対処の代わりに、自分の体を傷つけることでそのつらさを対処しているのです。

まずは何があったのかを傾聴することです。傾聴し、話し合える関係性を作ることが大切です。その中で継続的な援助を行っていくことが、自傷行為を減らすためのカギとなります。

自傷行為に対して本人が出来ること

自傷行為に対して本人が出来ることとして、自傷行為を行いたくなる「引き金」を見つけることがあげられます。

自傷行為は何かのきっかけで、「引き金」が生じ行われることが多いです。その引き金について専門機関の面接者と話し合い、引き金を回避する方法や、自傷行為の代わりとなる対処法を身に付けていきます。

引き金を見つける行動分析は、行動記録表という表を使って一日の流れを記録することがまずは基本となります。 また、行動分析は専門機関の面接者と一緒に行われることが一般的です。面接者と一緒に行うことで、より客観的に自分の行動を振り返ることが出来ます。

まとめ


今回は自傷行為についてご説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。

自傷行為は誰かの気をひきたくて、行われているものではありません。つらい気持ちを解消するために行われているものなのです。

だから私たちは自傷行為を告げられたら、決して無視してはいけません。

一番の問題は、「その人が何に悩んでつらい気持ちになっているのか」ということです。
だからこそ、話を聞いてあげることがとても重要です。自傷者の気持ちを聞いてあげることで、自傷者のこころの傷が癒され、体を傷つけることも徐々に少なくなっていくはずです。

この記事を書いた人

匿名希望

地方在住、病院勤務の公認心理師&臨床心理士です。
悩んでいる方のお手伝いができるよう日々勉強しています。

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