社交不安障害とはなにか?「生きづらさ」の原因に迫ります

メンタルヘルス

人前で緊張しやすいのは性格の問題?実は社交不安障害かもしれません

あなたは人前でプレゼンをしたり電話の受け答えをすることは得意ですか?苦手だと感じる人は、そのような時に自分がどのような状態だったかを思い出してみてください。「失敗したらどうしよう、恥をかいたらどうしよう」と思いながら、苦しいほどに心臓の動機がおさまらず、顔を赤くして汗をかきながらも何とか終わらせたという人がいるのではないでしょうか。

他の人々と比べて「どうして自分だけこんなに不安や緊張を感じてしまうのだろう」と疑問に思いながらも、「自分は緊張しやすい性格だから仕方ない」と思っていませんか?実はそれ、性格の問題ではなくて社会不安障害かもしれません。社交不安障害と聞いて、自分は病気というほどではないと思う人もいるかもしれませんが、社交不安障害が深刻化すると就職や結婚など人生の大事な場面での制約がかかりやすくなります。自分が人前で緊張しやすいのは、性格や能力の問題ではなく社会不安障害が原因かもしれないと思うことが重要です。そして、社交不安障害は治療が可能です。性格を直す必要はなく、社会不安障害を治せばよいのです。

社交不安障害とその「生きづらさ」


では、社会不安障害とは一体どのようなものなのかを見ていきましょう。
アメリカ精神医学会が刊行している精神疾患の診断マニュアルのDSM-5によると、以下の基準が示されています。(一部抜粋)

A.他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安、例として社交的なやり取り(例:雑談すること、よく知らない人に会うこと)、見られること(例:食べたり飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。

B.その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている。(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)

C.その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。

D.その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる。

E.その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない。

F.その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6か月以上続く。

精神科や心療内科にいる医師は上記のような診断基準を使って、精神疾患の診断をしています。社交不安障害の症状をわかりやすく言うと、「人前で何かをすることが苦手」ということが挙げられます。「自分は人前で話すこと(プレゼン)だけが苦手」だと思っていたのが、実はその他の対人場面においても苦手な状況が多かったというのはよくある話です。

ここまで社交不安障害についての概要を説明してきましたが、実際に社交不安障害によって日常生活上にどのような支障が出ると思いますか?
例えば、仕事でプレゼンを任されて、発表当日に会社を休んでしまう。電話応対をしなければならないのに、自分だけがなかなか電話に出れずに周りから叱責されてしまう。同僚や上司からランチに誘われても雑談が苦手だから一緒に行けない。このような状況は、社交不安障害によって、「生きづらさ」を抱えてしまっているのです。深刻化すると、人前で何かをすることが苦手なあまりにその状況を避けようとしてしまいます。結果として学校や会社に行かなくなってしまい、家に引きこもってしまうこともあります。

日常生活への影響が大きい社会不安障害ですが、いまだその原因は明らかになっていません。脳の中にある神経伝達物質(セロトニンやドパミン)が関係しているのではないかという説や、遺伝要因の面からの説など様々な仮説が提唱されています。社会不安障害になるのは決して「性格の問題」であったり、「心が弱いから」という理由ではありません。誰しもが不安や恐怖を抱くことはあります。自分の苦手なことが、「社会不安障害」という形であらわれてきているのだと思い、治療に取り組んでいくことが大事です。

社交不安障害の「コストバイアスの高さ」と認知行動療法

ここまで、社交不安障害についての概要を説明してきましたが、いまだ社交不安障害については明らかになっていないことも多く、研究の対象とされています。
社交不安障害に関する近年の研究では、社交不安障害と「否定的認知」の関連が指摘されています。社交不安障害の人が持つ考え方として、将来の社会的な状況に関する否定的な予測やコストの見積もりの高さ、過去の社会出来事の否定的情報処理や自己のパフォーマンスの否定的解釈をしてしまう傾向にあると研究で指摘されています。

色々と難しい言葉が並んでいて、よくわからない人もいるかもしれません。重要なのは、社会不安障害の人の持つ「コストバイアスの高さ」です。コストバイアスとは、社会的な状況における潜在的な脅威を過度に見積もる認知のことです。つまり、社交不安障害の人は、潜在的なリスクに対して通常の人よりもかなり高く見積もっているのです。

ところで、心理学の世界には「自動思考」と「スキーマ」という言葉があります。これらは認知行動療法で主に使われる言葉です。自動思考とは、「自分が辛くなった時にとっさに思い浮かぶ考えやイメージ」、スキーマとは「自動思考を生み出すもとになっている自分の考え方のクセ」のことを指します。最近、認知行動療法が取り上げられることが増えたので、少し知っているという人がいるかもしれません。認知行動療法は、自動思考に目を向け、それがどの程度現実と食い違っているかを検討することで、認知の偏りを修正することを目的としています。

社交不安障害の話に戻します。社交不安障害の人は「コストバイアスを高く見積もる」という「考え方のクセ」によって、「失敗するかもしれない、恥をかくかもしれない」と、咄嗟に頭の中に思い浮かんでくる考え方やイメージが起こり、結果として不安や恐怖を高めていると言えます。このような認知の偏りを修正するのに認知行動療法は相性が良いのです。海外の最新の研究によれば、社交不安障害の人々に対して9週間の認知行動療法を行ったところ、不安症状の低減だけでなく細胞の老化の保護の効果もみられたという結果も示唆されています。認知行動療法は「心」だけでなく「身体」にも効果が及ぶものなのです。

社会不安障害の治療について


社会不安障害の治療は、薬物療法と先述した認知行動療法の2つが主流です。
薬物療法はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)ベンゾジアゼピン系抗不安薬β遮断薬などを用いることが多いです。
認知行動療法については、病院で行っているところもあれば、心理オフィスなどの専門機関で認知行動療法を独自に行っているところもあります。最近では、認知行動療法に関するスマートフォン向けのアプリなども開発されています。無料でダウンロードできるアプリもありますので、「認知行動療法とはどのようなものなのだろう?」ということを知るきっかけになると思います。

この記事から、社交不安障害に対する理解が広まっていくこと、そして決して「心が弱いから」という理由で社会不安障害になるわけでないこと、最後に社会不安障害は「治療ができること」が皆様にご理解いただけましたら幸いです。

(参考にした論文・ニュースなど)
「社会不安に対するコストバイアスと不合理な信念の関連」
https://ci.nii.ac.jp/naid/110009418966

「不安障害への認知行動療法に細胞保護効果も」
Medical Tribute
https://medical-tribune.co.jp/news/2020/0109523850/

この記事を書いた人

匿名希望

東京にある某大学の法学部を卒業後、大手保険会社に数年勤務。
仕事をする傍らでメンタルヘルスについて興味を抱いたことがきっかけで、一念発起して心理系の大学院に入学。
1人でも多くの人に心理学やメンタルヘルスの知識を広めるため、ライターとしても活動している。

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